デフリンピックとは?
「デフ(Deaf)」とは英語で「耳がきこえない」という意味であり、デフリンピックは国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催する世界最高峰の国際総合スポーツ競技大会。夏季大会と冬季大会がそれぞれ4年に1度行われている。今年11月に日本で初開催される東京2025デフリンピックは、1924年に第1回夏季大会がパリで開催されてから、100周年となる記念大会でもある。
デフリンピックの参加資格は補聴器等を外した状態できこえる最も小さな音が55dB(デシベル)以上であること。55dBは中等度の難聴でふつうの声での会話が聞こえない程度であり、数字が大きくなるほど聞こえにくさは高くなる。また、プレーの公平性を保つため、選手は競技会場に入った時点から補聴器等の装着は禁止されている。
近年のデフリンピックで日本はメダル獲得数の順位で10位以内に入る実績を持つ。前々回の第23回夏季デフリンピック競技大会 サムスン2017では金6個を含む27個のメダルを獲得し、6位だった。2022年の第24回夏季デフリンピック競技大会 ブラジル2021では大会期間中に新型コロナウイルス感染者が増えたため、日本選手団として途中棄権したが、それでも、金12個を含む過去最多となる合計30個のメダルを獲得した。その後、東京での開催が決まり、強化も着実に進んでいることから、今大会でのさらなる飛躍が期待されている。

水泳の茨隆太郎選手
デフリンピックならではの競技
東京2025デフリンピックでは陸上競技(駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場など)や水泳(東京アクアティクスセンター)、バスケットボール(大田区総合体育館)など多くの競技は都内で行われ、サッカー(Jヴィレッジ)は福島県、自転車競技(日本サイクルスポーツセンター)は静岡県など1都2県で全21競技が実施される。
デフリンピックならではの2競技にも注目したい。オリエンテーリングは野山に設定されたコースを地図とコンパスだけを頼りに駆け巡り、コース上のコントロール(チェックポイント)を順番に通過してフィニッシュするまでのタイムを競う。コントロールには音でなく光によって通過したかが分かる仕組みが使われる。距離の異なる複数の種目があり、東京・千代田区の日比谷公園・日比谷エリアと伊豆大島の裏砂漠の2会場に分かれて行われる。もう一つは、ハイレベルなパフォーマンスが期待されるボウリング(東大和グランドボウル)で、試合進行の情報伝達にレーンモニターが活用される。
競技ルールはオリンピックと同じく各競技の国際ルールに準ずるが、各競技の特性に応じて視覚的にも情報を伝える工夫が取り入れられている点が特徴だ。
陸上競技や水泳のスタートの合図には、一般に「スタートランプ」と呼ばれる装置を使う。審判の声やピストルの音に合わせてランプの色を変化させることで、選手に視覚的にスタートのタイミングを伝える。例えば、陸上競技用では赤色が「位置について」、黄色が「用意」、緑色が「スタート」を意味する。
サッカーでは主審は反則があった場合などは笛を吹いて選手に伝え、ゲームを止めるが、デフサッカーでは笛に加え、手旗も振って選手が見て分かるように合図する。同様に、ゴール裏にも旗をもった係員が立ち、必要に応じて旗を振って知らせる。
選手同士やコーチ陣とのコミュニケーションには手話言語や手書きボードなどのほか、練習で培ったアイコンタクトや阿吽の呼吸など、さまざまな方法が駆使されている。音声に頼らない華麗な連係プレーやチームワークも見どころの一つだ。

音に代わり、光で合図を送るスタートランプ
メダル候補も多数!注目の日本人アスリートたち
日本選手団はメダル獲得目標として、「史上最多を上回る31個以上」を掲げる。陸上競技では前回大会で男子100m金メダルの佐々木琢磨(ささきたくま)選手(仙台大学TC)や棒高跳びの北谷宏人(きただにひろと)選手(東京パワーテクノロジー)らが連覇を狙う。また、円盤投げでデフ世界記録をもつ、3大会連続出場の湯上剛輝(ゆがみまさてる)選手(トヨタ自動車)は今年9月に東京で開催された「世界陸上」にも出場。勢いのまま初の金メダルに挑む。
水泳の筆頭は5大会連続出場となる茨隆太郎(いばらりゅうたろう)選手(SMBC日興証券)だろう。前回7個(金4、銀3)を含む、過去4大会で19個のメダルを獲得しており、今大会ではどこまで獲得数を増やせるか、楽しみだ。
女子バレーボール(駒沢オリンピック公園総合運動場体育館)も金メダル候補の一つだ。3連覇を狙った前回は日本選手団の途中棄権により、準決勝を前に無念の辞退となり、4位に。その後、新メンバーも加わり、昨年は世界選手権でも優勝している。8年ぶりの金メダル奪還が大いに期待される。

バレーボールの中田美緒選手
東京ゆかりアスリートにも注目!
「東京ゆかりアスリート」認定選手たちの活躍にも注目だ。陸上競技ではともに3大会連続出場となる、山田真樹(やまだまき)選手(ぴあ)と岡田海緒(おかだみお)選手(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)が複数種目でのメダル獲得をと意気込む。
卓球女子(東京体育館)では第21回夏季デフリンピック 台北2009以来、4大会に出場しメダル8個(銀3、銅5)を獲得している亀澤理穂(かめざわりほ)選手(住友電設)と、第22回夏季デフリンピック競技大会 ソフィア2013 から3大会連続出場でメダル5個(銀1、銅4)獲得の山田瑞恵(やまだみずえ)選手(SMBC日興証券)が、ともに悲願の金メダルを目指す。
空手女子(東京武道館)では前回組手銅の湯澤葵(ゆざわあおい)選手(全日本ろう者空手道連盟)、初出場の森こころ(もりこころ)選手(筑波大学付属聴覚特別支援学校高等部)が女子団体形で初のメダル獲得を目指す。
また、日本選手団は今大会で初めて、「全競技に代表選手を派遣」が実現した。これまで日本選手の出場がなかったテコンドー、ハンドボール、射撃、レスリングについては、東京都が主催した「東京都デフリンピックチャレンジトライアウト」により、全国から有望選手を発掘して強化。代表選考を通った計10名の選手たちが日本デフスポーツの新たな歴史を刻む。その活躍にも注目したい。

陸上競技の山田真樹選手(左)と卓球の亀澤理穂選手(右)

東京2025デフリンピックを観戦しよう!
東京2025デフリンピックでは事前申し込みなどは不要で、誰でも無料で会場観戦できる(射撃会場は除く)。ただし、会場ごとに座席数は異なり、限りもあるので、来場前には大会サイトの観戦案内ページから混雑状況を確認しよう。
なお、今大会では、きこえない・きこえにくいデフアスリートにも想いが届くようにと、新しい応援スタイル「サインエール」を開発。目で世界を捉える人々の身体感覚と日本の手話言語をベースに創られた「目でみる応援」だ。すでにいくつかの国内大会でテストも行われ、選手からは、「応援されていると感じられた」「力になった」といった感謝の声が聞こえている。東京2025デフリンピックの会場でもぜひ、サインエールで代表選手たちに想いを届けよう。
会場以外でも東京2025デフリンピック公式YouTubeチャンネル「TOKYO 2025 DEAFLYMPICS」や「TOKYOパラスポーツチャンネル」で、ライブ配信やハイライト配信などを通して観戦可能だ。世界最高峰の舞台で、自己の限界に挑むデフアスリートたちの活躍をぜひ、応援しよう!

サインエールを覚えて観戦しに行こう!
東京2025デフリンピック 競技、日程、会場
| 競技名 | 日程 | 会場 |
|---|---|---|
| 開会式 | 11/15 | 東京体育館 |
| 陸上競技 | 11/17〜25 | 駒沢オリンピック公園総合運動場/大井ふ頭中央海浜公園陸上競技場(ハンマー投げ)/東京高速道路及び首都高速道路高速八重洲線の一部(マラソン)/駒沢オリンピック公園総合運動場 陸上競技場 |
| バドミントン | 11/16〜21、23〜25 | 京王アリーナTOKYO(武蔵野の森総合スポーツプラザ) |
| バスケットボール | 11/16〜25 | 大田区総合体育館 |
| ビーチバレーボール | 11/16〜23 | 大森ふるさとの浜辺公園 |
| ボウリング | 11/17〜25 | 東大和グランドボウル |
| 自転車競技(ロード) | 11/17、18、20、22 | 日本サイクルスポーツセンター静岡県 |
| サッカー | 11/14〜25 | Jヴィレッジ福島県 |
| ゴルフ | 11/18〜21 | 若洲ゴルフリンクス |
| ハンドボール | 11/16、17、19、21、23、25 | 駒沢オリンピック公園総合運動場/駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場 |
| 柔道 | 11/16〜18 | 東京武道館 |
| 空手 | 11/23〜25 | 東京武道館 |
| 自転車競技(マウンテンバイク) | 11/24、25 | 日本サイクルスポーツセンター静岡県 |
| オリエンテーリング | 11/15、16、20、21、23 | 日比谷公園・日比谷エリア/伊豆大島(裏砂漠) |
| 射撃 | 11/16〜25 | 味の素ナショナルトレーニングセンター・イースト |
| 水泳 | 11/20〜25 | 東京アクアティクスセンター |
| 卓球 | 11/18〜21、23、24 | 東京体育館 |
| テコンドー | 11/22〜24 | 中野区立総合体育館 |
| テニス | 11/16〜25 | 有明テニスの森 |
| バレーボール | 11/16〜20、22〜25 | 駒沢オリンピック公園総合運動場/駒沢オリンピック公園総合運動場 体育館 |
| レスリング(フリースタイル) | 11/23、24 | 府中市立総合体育館 |
| レスリング(グレコローマン) | 11/21、22 | 府中市立総合体育館 |
| 閉会式 | 11/26 | 東京体育館 |
(取材・文/星野恭子)