日本選手団に勢いを与えた柔道と陸上競技の活躍
11月15日に東京体育館で行われた開会式では第1回パリ大会を開催したフランスの選手団を先頭に、アルファベット順に各国・地域の選手団が入場した。炎でなく光を運んだ炬火リレーや選手宣誓などののち、デフリンピックの歴史や社会の変化を振り返るアーティスティックプログラムも披露され、100周年の記念大会が幕を開けた。
競技では、日本はベテランも初出場選手も躍動。21競技中13競技でメダルを獲得し、幅広い強化の成果を示した。日本勢メダル第1号は大会2日目、柔道で初出場の岸野文音(きしのあやね)選手(紀陽ビジネスサービス)で、女子52㎏級で銅メダルに輝いた。男子73㎏級の蒲生和麻(がもうかずま)選手(東日本旅客鉄道)もつづくなど大会4日目までに柔道だけで銅7個を獲得、日本代表に弾みをつけた。

日本人メダル1号に輝いた岸野選手
日本勢最初の金メダルは大会5日目、陸上競技・男子400mで、デフ日本新記録(47秒61)をマークした山田真樹(やまだまき)選手(ぴあ)がつかんだ。3大会連続出場だが、前回はコロナ禍による日本選手団の途中棄権があり、自身8年ぶりの金メダル。「ずっと頑張ってきた努力が報われた」と喜んだ。つづく男子200mでもデフ日本新記録(21秒61)で銀、陸上最終種目の男子4x400mリレー決勝ではアンカーを担い、2個目の金に輝き、有終の美を飾った。

大会ポスターにも起用され、サインエールの開発にも関わるなど、「大会の顔」でもあった山田選手
陸上での金ラッシュはつづく。円盤投げで湯上剛輝(ゆがみまさてる)選手(トヨタ自動車)がデフリンピック記録を12年ぶりに更新する58m93で優勝。圧巻はハンマー投げで、日本人が表彰台を独占。初出場の遠山莉生(とおやまりき)選手(筑波大)が金、銀はデフ世界記録保持者の森本真敏(もりもとまさとし)選手(日神不動産)、銅は石田考正(いしだたかまさ)選手(EYストラテジー・アンド・コンサルティング)が獲得。遠山選手は「メダル独占の上で、自分が1位は嬉しい。ここまで来られたのは2人(森本選手、石田選手)のおかげ」と笑顔で話した。陸上でメダル11個(金5、銀3、銅3)を積み上げた。

湯上選手の持つデフ世界記録は健聴者も含めた日本記録でもある
連日のメダルラッシュ
水泳も全12個(金3、銀4、銅5)とメダルを量産。なかでも、5大会連続出場の茨隆太郎(いばらりゅうたろう)選手(SMBC日興証券)は図抜けていた。自身1種目目の男子400m自由形は銀だったが、得意の男子400m個人メドレーを含む3種目で金など連日表彰台に立ち続け、個人最多となるメダル7個を獲得。これで茨選手のメダルはデフリンピック通算26個となり、これまでの日本勢最多メダル記録(19個)を大きく更新した。

「日本初開催で、これまでになくプレッシャーがあったが、鳥肌が立つほどの応援を受け、幸せだった」と話した茨選手
金ラッシュは止まらない。バドミントンでは女子ダブルスで矢ケ部紋可(やかべあやか)選手(ゼンリンデータコム)・矢ケ部真衣(やかべまい)選手(福岡県筑紫女学園大)の姉妹ペアが息の合ったプレーで悲願の金。混合団体戦でもチーム力を発揮した日本が決勝で中国を3-1で退け、初の世界一に輝いた。

決勝で中国ペアにストレート勝ちをした矢ケ部紋可・真衣ペア
テニスでは女子ダブルスで日本ペア同士の頂上決戦が実現した。ストレート勝ちの菰方里菜(こもかたりな)選手(島津製作所)・鈴木梨子(すずきりこ)選手(NTT都市開発)組が金、宮川百合亜(みやがわゆりあ)選手(日本大学)・杉本千明(すぎもとちあき)選手(京都外大西高)組が銀。

菰方選手は女子単複二冠を達成
空手で2種目連覇を狙った小倉涼(おぐらりょう)選手(坂戸ろう学園教員)は、女子個人形で悔しい銅。だが、女子組手61㎏級決勝では相手にリードされていた残り30秒で大技を決めて逆転、王座を守った。「旗手という立場で重圧もあったが、無事に金が獲れて嬉しい」と笑顔。森健司(もりけんじ)選手(立命館大)は男子個人形で完璧な演舞を披露して金、男子組手60㎏級でも銅と力を示した。女子団体形でも金メダルを獲得し、金3つ銅2つを獲得し、日本の力を世界へ強くアピールした。

開会式で日本選手団の旗手も務めた小倉選手
勢いは団体競技にも波及する。手話言語やアイコンタクトなどを駆使し、磨いてきたチームワークが大舞台で本領発揮。バレーボール女子は決勝で、前回優勝のトルコにストレート勝ちし、2大会ぶりの世界一。エースの梅本沙也華(うめもとさやか)選手(モリタ製作所)が「待ち焦がれていた金」と喜んだ。バスケットボール女子は決勝で前回金のアメリカと大接戦。65-64の1点差勝ちで初制覇を遂げた。また、サッカーは男女揃って準優勝、ともに初のメダル獲得と健闘した。

観客とともに優勝の喜びを分かち合ったバレーボール女子日本代表
東京ゆかりパラアスリートたちも存在感
東京ゆかりのパラアスリートも躍動した。陸上の村田悠祐(むらたゆうすけ)選手(仙台大/ゆかりの地域:大田区 ※以下地域名のみ表記)は初出場ながら男子4x400mリレーの第2走者として優勝に貢献、個人2種目でも5位に入賞した。水泳の久保南(くぼみなみ)選手(大日本ダイヤコンサルタント/豊島区)は女子50m平泳ぎで銀、金持義和(かなじよしかず)選手(メルカリ/港区)も2種目で銅と活躍。バドミントンの沼倉昌明(ぬまくらまさあき)選手(トレンドマイクロ/新宿区)は混合団体優勝に貢献。卓球でも亀澤理穂(かめざわりほ)選手(住友電設/杉並区)、山田瑞恵(やまだみずえ)選手(SMBC日興証券/練馬区)が女子団体銀、亀澤史憲(かめざわふみのり)選手(サムティ/国分寺市)は男子団体銅獲得にそれぞれ力を発揮した。

5大会連続出場の亀澤選手は、女子団体で銀メダルを獲得
バレーボール女子の佐藤愛莉(さとうあいり)選手(大成建設/町田市)、長谷山優美(はせやまゆうみ)選手(住友電設/江戸川区)、松永彩珠(まつながあやみ)選手(エイ・ネット/稲城市)も金メダルを獲得。サッカー男子の瀧澤諒斗(たきざわあきと)選手(亜細亜大学/あきる野市)と仲井健人(なかいけんと)選手(日本サッカー協会/小金井市)、サッカー女子の國島佳純(くにしまかすみ)選手(ドリームインキュベータ/江戸川区)もそれぞれ準優勝に貢献した。

大応援団とともに戦ったサッカー男子日本代表
また、これまで日本代表派遣歴がなかった4競技(レスリング、テコンドー、ハンドボール、射撃)について東京都が行った「東京都デフリンピックチャレンジトライアウト」で発掘された選手も結果を残した。開会式で選手宣誓したテコンドーの星野萌(ほしのもえ)選手(筑波技術大)が女子プムセで、レスリングの曾我部健(そがべけん)選手(日亜化学工業)は男子グレコローマン130kg級で、ともに銅メダルをつかみ、各競技のチーム史上初のメダルをもたらした。

堂々の演武を披露した星野萌選手
未来につなぐ
11月26日に東京体育館で閉会式が行われ、小池百合子東京都知事は、「例えようもなく素晴らしい、歴史に残る12日間」と振り返り、「この大会はきこえない人、きこえにくい人、きこえる人がともに作り上げた。2度のパラリンピック、そしてデフリンピックを開催した世界で唯一の都市・東京から、真の共生社会の姿を世界に発信できたことを誇りに思う」と挨拶。主催した国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)のアダム・コーサ会長は、「また4年後、第26回夏季デフリンピックでお会いしましょう」と呼びかけた。
式典後はアーティスティックプログラム「ボンミライ!」で会場が一体になった。フランス語の「bon(良い)」と日本文化の「盆」をかけ、「良い未来」という意味が込められた新しい盆踊りだ。各チームの選手やスタッフが交ざりあい、来場者も客席で楽しく踊り、名残を惜しむなか、12日間の熱戦が幕を閉じた。
大会は選手の活躍もあり、前述のように約28万人が会場で観戦し、大会本部の他、デフスポーツやろう者の文化への理解を深めるブースなどが置かれた「デフリンピックスクエア」には約5万人が訪れた。「サインエール」というレガシーも残った。選手からは「デフスポーツや聴覚障害、手話言語などについて多くの人に知ってもらえる良い機会になった」と手応えの声が聞かれた。大会に向け、AIなどのデジタル技術を活用し、音声の文字化や翻訳してコミュニケーションを補助するユニバーサルコミュニケーション技術も新たに開発、実装されるなど社会の変化も見られた。
大会閉幕後の11月30日、ICSDは次回2029年の夏季デフリンピックの開催地がギリシャのアテネに決まったと発表した。今大会の盛り上がりを一過性に終わらせないよう選手の発掘・強化をはじめ、人々の関心や支援など継続的な取り組みに期待したい。

フランス語の「bon(良い)」と「盆」から「良い未来」の思いを込めた「ボンミライ」を踊り、一体感に包まれながら、大会は幕を下ろした
(取材・文/星野恭子、撮影/有限会社エックスワン)
| メダル/数 | 競技/種目 | 名前 |
|---|---|---|
| 金(16) | 陸上競技/男子400m | 山田真樹 |
| 陸上競技/男子ハンマー投 | 遠山莉生 | |
| 陸上競技/男子円盤投 | 湯上剛輝 | |
| 陸上競技/男子4×100mリレー | 岡本隼/冨永幸佑/坂田翔悟/佐々木琢磨 | |
| 陸上競技/男子4×400mリレー | 足立祥史/村田悠祐/荒谷太智/山田真樹 (*決勝のみ)/小原奏楽(*予選のみ) | |
| バドミントン/女子ダブルス | 矢ケ部紋可/矢ケ部真衣 | |
| バドミントン/混合団体戦 | 沼倉昌明/太田歩/永石泰寛/森本悠生/沼倉千紘/矢ケ部紋可/片山結愛/矢ケ部真衣 | |
| 水泳/男子200m自由形 水泳/男子200m個人メドレー 水泳/男子400m個人メドレー |
茨隆太郎 | |
| 空手/男子個人形 | 森健司 | |
| 空手/女子団体形 | 森こころ/湯澤葵/金子陽音 | |
| 空手/女子個人組手ー61㎏ | 小倉涼 | |
| テニス/女子ダブルス | 菰方里菜/鈴木梨子 | |
| バレーボール/女子 | 梅本綾也華/平岡早百合/石原美海/戌丸奈美/梅本沙也華/岡田夕愛/尾塚愛実/栗林愛美/佐藤愛莉/高橋朋伽/髙濵彩佑生/中田美緒/長谷山優美/松永彩珠 | |
| バスケットボール/女子 | 岡田紗也/加藤志希/加藤志野/川島真琴/小鷹実春/豊里凛/橋本樹里/羽田まりな/藤田彩音/丸山香織/若松優津/和田七海 | |
| 銀(12) | 陸上競技/男子ハンマー投 | 森本真敏 |
| 陸上競技/男子200m | 山田真樹 | |
| 陸上競技/男子800m | 樋口光盛 | |
| バドミントン/男子ダブルス | 永石泰寛/森本悠生 | |
| 水泳/男子400m自由形 水泳/男子100mバタフライ 水泳/男子200mバタフライ |
茨隆太郎 | |
| 水泳/女子50m平泳ぎ | 久保南 | |
| テニス/女子ダブルス | 宮川百合亜/杉本千明 | |
| 卓球/女子団体戦 | 亀澤理穂/木村亜美/山田瑞恵/山田萌心 | |
| サッカー/男子 | 松元卓巳/則末遼斗/竹下勇希/名村昌矩/齋藤心温/江島由高/湯野琉世/中尾悠人/桐生聖明/杉本大地/奥元伶哉/原口凌輔/堀井聡太/西大輔/岡田侑也/仲井健人/星河真一郎/森重英威豪/岡井舜/岡田拓也/古島啓太/瀧澤諒斗/林滉大 | |
| サッカー/女子 | 伊藤美和/國島佳純/石岡洸菜/久住呂文華/増田香音/宮田夏実/榊原莉桜香/宮城実来/髙橋遥佳/阿部菜摘/小森彩耶/酒井藍莉/川畑奈菜/西田波琉/杉本七海/髙木桜花/岩渕亜依/東海林香那 | |
| 銅(23) | 陸上競技/男子100m | 佐々木琢磨 |
| 陸上競技/男子ハンマー投 | 石田考正 | |
| 陸上競技/男子棒高跳 | 北谷宏人 | |
| 卓球/女子ダブルス | 山田瑞恵/山田萌心 | |
| 自転車/男子個人ロードレース | 藤本六三志 | |
| 柔道/男子73㎏級 | 蒲生和麻 | |
| 柔道/男子81㎏級 | 深澤斗 | |
| 柔道/男子90㎏級 | 水掫瑞紀 | |
| 柔道/男子100㎏級 | 高橋朋希 | |
| 柔道/女子52kg級 | 岸野文音 | |
| 柔道/女子70kg級 | 衣川暁 | |
| 柔道/男子団体 | 佐藤正樹/蒲生和麻/深澤優斗/水掫瑞紀/高橋朋希 | |
| レスリング/男子グレコローマン-130kg | 曾我部健 | |
| テコンドー/女子プムセ | 星野萌 | |
| 空手/女子個人形 | 小倉涼 | |
| 空手/男子個人組手ー60㎏ | 森健司 | |
| 水泳/女子100m平泳ぎ | 串田咲歩 | |
| 水泳/男子50m背泳ぎ | 金持義和 | |
| 水泳/女子200m平泳ぎ | 串田歩 | |
| 水泳/男子4×100mメドレーリレー | 金持義和/星泰雅/茨隆太郎/村岡翼輝 | |
| 水泳/女子4×100mメドレーリレー | 川眞田結菜/串田咲歩/齋藤京香/平林花香 | |
| 卓球/男子団体戦 | 川口功人/亀澤史憲/伊藤優希/灘光晋太郎 | |
| テニス/女子シングルス | 菰方里菜 |
(第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025 日本選手団 WEBサイト参照)