ELFINが10大会ぶりに王座を奪還!
ハイパフォーマンスと次世代をあわせて日本代表強化指定選手9人を擁し、チーム目標の10連覇に王手をかけていたカクテルは今大会も優勝の最有力候補とされていた。ところが大会1日目の予選リーグで、その牙城がELFINによって崩された。
前半を終えて、27-24。ELFINがわずかにリードするも、カクテルが後半に強いこともあり、この時点で勝負の行方はまったくわからなかった。しかし、両チームの心境にはこの時すでに大きな差異が生じていた。キャプテン・和田実梨(わだみのり)選手が「後半も同じことを繰り返すだけだった」と語るなど、これまで練習してきたことに大きな手応えを感じ、やるべきことに迷いがなかったELFINに対し、カクテルには自分たちのバスケットができていないという感覚があった。カクテルのキャプテン・北間優衣(きたまゆい)選手は、こう語っている。
「自分たちでシュートを打っているというよりも、相手に打たされているという感じ。ELFINさんが自分たちに対してしっかりと対策をしてきたことをひしひしと感じながらプレーしていました」
そんな両チームの心境の違いは、後半になるとスコアにも表れた。3Q、多彩な攻撃で16得点を挙げたELFINに対して、カクテルはわずかに5点にとどまり、43-29。ELFINのリードは2ケタに広がった。カクテルも最後の4QはELFINの6得点を上回る11得点を挙げ、諦めない姿勢を見せたものの、最後まで追いつくことはできず、49-40でELFINに軍配が上がった。
さらに翌日の決勝、4大会連続でファイナリストとなり、前回大会まではカクテルの最大のライバルだったWingを61-37で破ったELFIN。10大会ぶりに日本一を奪還するとともに、2018年に下賜された皇后杯としては初のタイトルに輝いた。
MVPに選出されたのは、ELFINの上野晴香(うえのはるか)選手だ。今年度ELFINに移籍した上野選手は攻防にわたって活躍。ポイントガードとしてゲームコントロールしながら、カクテル戦では13得点、決勝でも14得点と実力を発揮した。今年2月の「国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会(大阪カップ)」では初めて女子日本代表メンバーに選出された上野選手。日本一、そしてMVPという栄光を手にした上野選手が、どんな代表デビューを飾るのか、注目される。

持ち前の勝負強さを発揮し、チームを優勝に導いた上野選手
新しいチームの形を提唱するLEAVESが初白星!
今大会で記念すべきチーム初勝利を挙げたのが、結成2年目の「LEAVES」(東北ブロック)だ。LEAVESは、現女子日本代表キャプテンの萩野真世(はぎのまよ)選手が女子選手の試合への出場機会を増やし、車いすバスケットボール女子の普及拡大、さらなる発展を目指して2024年度に設立。初出場だった前回大会では全敗だっただけに、今大会は「1勝」をチーム目標に臨んだ。
LEAVESには、人数不足のために休部状態にある「パッション」(中四国ブロック)の選手が多く、そのほかこれまで女子のクラブチームでは活動することができずにいた選手など、さまざまな選手たちが所属している。そのためメンバーは、北は東北から南は四国までと広域にわたり、通常のクラブチームのように、普段から練習をしてチームを作り上げることはできない。大会ではぶっつけ本番で試合に臨む。
それでも、今大会では予選リーグ初戦から強豪カクテル相手に2Q前半までは1ケタ差と食らいつき、善戦。そして「九州ドルフィン」(九州ブロック)との5、6位決定戦では1Qで18-2と引き離し、そのまま一度も逆転を許すことなく、60-29と快勝。ついに皇后杯での初白星をつかんだ。

5・6位決定戦で勝利し、喜びをかみしめたLEAVESの選手ら
この勝利に大きく貢献したのが、只信実鈴(ただのぶみすず)選手と百合山沙織(ゆりやまさおり)選手だ。2人は前回大会には出場していない。LEAVESが出場するためには東北ブロック内に居住地または勤務地等がある選手が2分の1以上の割合でなければならないという登録規定があった。前回大会ではチーム内にハイポインターが多く在籍していることもあり、四国在住の2人は選手登録を断念。それでもスタッフとして帯同し、陰でチームを支えた。しかし今大会はその規定が緩和されたことにより、2人の出場がかなったのだ。彼女たちの活躍は萩野選手にとっても感慨深く、「2人の活躍がチームを勢いに乗せてくれた」と初勝利への献度の大きさを感じている。
そして、只信選手と百合山選手は、今大会に出場した感想をこう述べている。「昨年はスタッフとしてチームをサポートすることにやりがいを感じていましたし、チームで戦っているという実感もありました。一方で今大会ではコートに立ってプレーするって楽しいなということを改めて感じました」と只信選手。百合山選手も「昨年は初めてマネジャーをさせてもらい、とても勉強になりました。ただ正直、ベンチで見ながら『自分も出たいな』という気持ちもありました。だから今回はプレーすることができて楽しかったです」と述べた。


献身的なプレーでチームを支えた只信選手(左)と百合山選手(右)
萩野選手の願いは、ゆくゆくは現在LEAVESに所属する選手たちがそれぞれのブロックでチーム活動をし、皇后杯には全国から多くのチームが集結する状況になること。それは、まさに只信選手と百合山選手が目指す未来でもある。LEAVESでの活動は、中四国ブロックの先輩たちから受け継いだ「パッション」として再び皇后杯のコートに立つ、その日に向けて歩みを止めないためのものでもあるからだ。
初の皇后杯に臨んだ高校2年生・片山柚香選手
さて、今大会では10代の若手選手たちの活躍も注目された。そのうちの一人が、九州ドルフィンに所属する高校2年生の片山柚香(かたやまゆずか)選手だ。全試合で先発出場し、ポイントガードとしての役割をしっかりと果たした。
もともとバスケットボールの経験があり、中学時代に所属していたクラブチームでは九州大会に出場したこともある。高校はバスケットボールの特待生として進学することが決まっていた。しかし高校入学を直前に控えていた頃に障害を負い、バスケットボールを断念せざるを得なかった。
それでも次の目標を見つけるにはそう時間はかからなかったという。退院後、彼女の脳裏にふと浮かんだのは、車いすバスケットボールだった。実は小学生の時、学校で車いすバスケの体験授業を受けたことがあったのだ。しかし片山選手は下肢だけでなく、右腕にも障害がある。そのため、はじめは「車いすバスケはできない」と思っていた。しかし偶然、SNSで片麻痺の選手がプレーしている画像を見かけ、しかも片山選手の地元、福岡を拠点とする男女混成チーム「ライジングゼファーフクオカ」だった。その日のうちにチームに連絡をし、すぐに練習を見学に行った片山選手は迷うことなく加入。第二のバスケットボール人生をスタートさせた。

物怖じせず、堂々としたプレーで存在感を放った片山選手
昨年10月には女子次世代強化指定選手に選出された片山選手は、本格的にパラリンピックを目指すことを決意。そこで男子とプレーする時とは使用するボールも異なる女子の車いすバスケを学び、さらなるスキルアップにつなげようと、ライジングゼファーフクオカとは別に、昨年九州ドルフィンにも加入。今大会は、それからわずか3カ月後のことだったが、すでにチームの中心となりはつらつとしたプレーを見せた。
「いつものローカルな大会とは、会場の雰囲気がまるで違っていて、緊張感が漂っていたし、相手が本当に強い選手ばかりでした。でも『負けたくない』という気持ちがわいてきて、夢中になってプレーすることができたおかげで、とても楽しむことができました」と片山選手。今大会での経験を糧にして、さらなる飛躍が期待される。

多くの観客が決勝に駆け付け、女子クラブ日本一の行方を見守った
(取材・文/斎藤寿子、撮影/有限会社エックスワン)