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パラスポーツインタビュー詳細

稲垣 壮洋さん(監督・脚本家)

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プロフィール

名 前

稲垣 壮洋(いながき まさひろ)

生年月日

1978年8月31日生まれ

出身地

福島県いわき市

所 属

株式会社エム・エーフィールド

 東京初の身体障害者野球チーム「東京ブルーサンダース」結成にまつわる実話を基に、「人生は3アウトじゃ終わらない」をテーマにした映画、『4アウト ─もう一度、プレイボール─』が11月6日から全国公開されます。同映画の監督・脚本を手がけた、稲垣壮洋さんは大学生時代にブラインドサッカーと出会って以来、さまざまな競技体験やパラスポーツ指導員資格の取得など、「ライフワーク」と語るほどパラスポーツと関わられています。2018年に出会い、映画制作を通して体感された身体障害者野球の魅力やパラスポーツへの思いなどについて伺いました。

映画『4アウト ─もう一度、プレイボール─』は企画スタートから8年越しとなる公開が近づいています。今のお気持ちは?

 とても楽しみです。映画化を考えたのは、身体障害者野球をもっと広めたい、ひた向きに取り組む選手たちを知ってほしいという思いが強かったからです。彼らは(パラリンピックの)メダリストのようなトップアスリートではないけれど、苦しみや葛藤を乗り越え、希望をもって再出発の道のりを歩んでいる人たち。人生は心の持ちようや置かれた環境などによる少しの変化が次へと影響していくものです。この映画も見た人に影響を与えられる存在になれたら嬉しい。だから、いろいろな方に見ていただきたいです。

©2026映画「4アウト」製作委員会

主演の矢上雄一役を演じた相葉雅紀さん(右)と、矢上の同僚兼チームマネージャーの高橋明日香役を演じた黒島結菜さん(左)

この映画が生まれたきっかけは、原作である『4アウトーある障害者野球チームの挑戦』(平山讓著)との出会いだったそうですね。

 僕は、競技歴はありませんが、元々、野球が大好きなんです。この本には心や体が傷つきながら、野球と出会って人生が大きく変わった人たちがたくさん出てきます。例えば、主人公は社会人野球で戦力外通告を受けて引退後、障害者野球チームの監督となって新しい夢を見つけます。最初から映画にしようと思ったわけではありませんが、空っぽだった人が一歩踏み出して、生きがいを見つけていくというストーリーに惹かれました。

©2026映画「4アウト」製作委員会

日本身体障害者野球連盟の創設者で初代理事長をモデルにした岩橋広司役を演じた佐々木蔵之介さん

身体障害者野球については、どのように思われましたか?

 本を読むまで、身体障害者野球があることも知らなかったので、「いったい、どんな野球なんだろう」という疑問が湧きました。インターネットで調べたら、群馬県伊勢崎市で関東大会があると分かり、見に行きました。普通に野球だったし、上手だったんです。グラブトス(捕球したボールを手に持ち替えることなくグラブの中からそのまま、近くにいる味方に投げ渡すこと)でダブルプレーにしたり、華麗で驚きました。

 でも、選手は手や脚がなかったり、車いすや義足だったりと十分に動けないハンディキャップがありました。だから、みんなが助け合って、それぞれの障害をカバーしているんですね。例えば、体の左側にボールが飛んでくることの多いサードには右手欠損の選手、その逆のファーストには左腕欠損の選手を入れるなど、それぞれの障害や特性をチーム内で共有し、補い合うように工夫していました。走れない選手には代走を送れるルールもありました。チームワークがすごく試される野球だと思い、すごく応援したくなりました。

レベルの高さに驚かれた?

 そうなんです。あとから知りましたが、用具にしても、片手での打撃や弱い握力を補うためにバットにグリップを2つ付けたり、片腕の選手はワンハンドキャッチからスローしやすいようにグローブの紐をかなり緩めていたり、たくさんの細工や工夫があって、それも面白いなと思いました。

 でも、足を引きずりながらボールを追いかけたり、途中で転んじゃったり、チームメートがみんな駆け寄ってきて、1人がボールを拾って投げたら、ベースに誰もいなくてアウトが取れなかったり…。そういう不器用なプレーにも僕は惹かれました。

決して華麗ではないけれど、ひたむきさが魅力だったでしょうか?

 実は最初に見た試合が0対30でした。「なんだ、これは!?」という結果ですけど、負けたチームはすごく悔しがっていて、気づいたら応援していましたね。

 それに、みんな楽しそうだったんです。目標は勝利でしょうけど、選手もベンチもとにかく楽しそうでした。その大会以降も、(映画のモデルとなった)東京ブルーサンダース(※)をはじめ、いろいろなチームを訪問しましたが、笑っている場面は本当によく見かけました。

稲垣壮洋監督

競技の魅力に、いろいろ気づかれたんですね。では、映画づくりでこだわられたことは?

 とにかく、「野球を撮る」こと。選手をよく見たら、障害のある人たちだったという映画にしたいと思いました。とくにこだわったのは2点で、ひとつは「背景の見える野球シーン」です。身体障害者野球を見続けて、「プレーに練習した跡」を感じたんです。例えば、初観戦のときに0対30で負けたチームの試合を約半年後にまた観る機会がありました。そのときも0対10ぐらいで敗れたのですが、上手くなっていました。どんな練習をしたかは分からないけれど、プレーの様子から「陰の努力」が見えたんです。

 映画では、利き腕を切断した片腕の選手がワンハンドキャッチして投げるシーンが何度も出てきます。できるようになるまで絶対に、必死に練習したはずです。でも、練習の描写はあえて入れず、原因と結果のシーンだけ。そのワンプレイに彼の頑張る姿が想像できるように、人生が垣間見えるように撮りたいと思いました。

もうひとつのこだわりは何でしょうか?

 原作を読んだり、多くの選手たちから聞いて知った、「少しずつのステップアップが、いつか夢や生きがいへとつながっていく過程」を描くことです。例えば、家に引きこもっていた障害のある人が野球と出会って気持ちが少し上向きになった。球場に行ったら仲間と出会って、生活にも張りが出た。生き方まで変わって、最終的に次の夢を見つけるといった、その過程です。

 僕は小さな1歩をつづけたら道になるように、全部のステップがつながって大きなものになると信じています。そんなメッセージを、大好きな野球を通して伝えたいと思いました。

©2026映画「4アウト」製作委員会

劇中に登場する身体障害者野球チームのブルーフェニックスは実在する「東京ブルーサンダース」がモデルとなっている

映画の主人公・矢上は障害のある人ではありません。指導者として障害のある人たちと向き合う、そのエピソードも印象的です。

 僕自身にも、「障害のある人をサポートしたいけど、何をしていいか分からない」とか、「先回りしすぎて必要以上に世話を焼いてしまった」といった経験がありました。戸惑いや葛藤は障害のある人と接する最初の壁なのだろうと思ったので、そういう難しさも描けたらという思いはありました。

 障害の有無による違いはあるし、できないものはできない。じゃあ、「どうしたらできるか考えてみる」というマインドが必要だと思っています。一方的な考え方を押し付けないことが大事で、そのためにはお互いにできること、できないことを話しあい理解しあうことが大切だと思います。映画でもそういった描き方を心がけました。

映画では障害のあるキャストのオーディションを行い、演技経験のない方も多数、出演されていると聞きました。

 オーディションはやってよかったです。経験のない人に演技をしてもらう難しさはあるだろうと思いましたが、障害のある人たちのリアリティや葛藤を乗り越えたバックボーンなども役に投影できたらという欲があったからです。

 オーディションにはアスリートだけでなく、さまざまな背景をもった人が約200人も参加してくれました。オーディションの約1週間前に台本を送ったのですが、全員がセリフを暗記して臨んでくれました。驚いたし、嬉しかったです。

 「自分の生きざまを見てほしい」「障害なんかに負けないぞ」「人生を変えたい」「チャンスを掴みたい」……。皆さん、強い思いを持っていたし、応募動機を聞いて涙が出ることもありました。それぞれの思いを少しずつでも映画に生かせたらと、実はオーディションに落ちた参加者たちにもできる限り、出演してもらっています。

11月6日の映画公開がますます楽しみになってきました。公開後の11月21日、22日には「第6回世界身体障害者野球大会」も福岡県北九州市で開催されます。日本代表チームは3大会連続5回目の優勝を狙います。ぜひ、エールをお願いします。

 硬くならず、普段通りのプレーを!でしょうか。今年のチームは監督もメンバーも入れ替わった新チームです。どんなチームか楽しみですし、いろいろチャレンジもしてほしいですね。応援しています。

最後に、アスリートだけでなく、支える人やパラスポーツに興味をもつ人など、当サイトの多様な読者に向けてメッセージをいただけますか。

 シンプルですけど、「何かをやってみたいと思ったら、やってみよう!」ですね。例えば、スポーツジムに行きたいけど、誰かの助けがないと行けないなら、諦めるのでなく誰かの助けを借りようとすればいい。やりたい気持ちにブレーキをかけてしまうような“心の中にいる小さなガードマン”は今すぐ解雇してください! スポーツに取り組んだり、関わったりすることで人生が変わっていく。そんな人が少しでも増えてほしいなと願っています。


(※)東京ブルーサンダースについては地域のクラブ紹介ページで紹介しています。

(取材・文/星野恭子、撮影/有限会社エックスワン)

映画「4アウト ─もう一度、プレイボール─」公開情報
2026年11月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
©2026映画「4アウト」製作委員会
配給:S・D・P
公式サイト https://4out-movie.com/